2019.2.7 [備忘録] アンパンマン わくわく クレーン ゲーム の動作仕様

最近、アガツマ製 『アンパンマン NEWわくわくクレーンゲーム』の修理依頼を数件頂いており、ギアボックス内部の動作仕様について資料にまとめました。

今回は、その中で触れておりませんでした軸移動時のスイッチの機能とクレーンの巻上げ機能について詳細を備忘録として掲載します。掲載する内容は、以下2点となります。

  1. クレーン移動時のHOME位置検出スイッチの役目について
  2. クレーン巻上げ回数について

※HOME位置(ホーム位置)とは、起動時にクレーンが位置すべき位置でカプセルを落下させる最左端、最下端の位置のことです。


クレーン移動時のHOME位置検出スイッチの役目について

X軸 Y軸 HOME位置検出スイッチ

上部のカバーを開けるとギアボックスが現れ、このギアボックスの蓋を開けると上図のようなスイッチを確認できます。

  • X軸 HOME位置検出スイッチ

向かって左手に見えるスイッチは、クレーンがX軸で(右や左)に移動する際、クレーンのHOME位置を検出スイッチです。スイッチON時、クレーンが、最左端にあると制御ICは認識します。

  • Y軸 HOME位置検出スイッチ

向かって右下に見えるスイッチは、クレーンがY軸で(上や下)に移動する際、クレーンのHOME位置を検出スイッチです。スイッチON時、クレーンが、最下端にあると制御ICは認識します。

例えば、電源投入時にクレーンがHOME位置に居なかった場合(移動途中で電源を落としたりした場合)、X軸、Y軸とのスイッチのどちらかがもしくはどちらもOFFの場合、HOME位置に移動するため、X軸、Y軸スイッチがONになるまで移動し続けます。

HOME位置への移動順

上図のようにクレーンがHOME位置に居なかった場合、①のY軸のHOME位置検出スイッチが、ONになるまで下方に移動します。次に、②のX軸のHOME位置検出スイッチが、ONになるまで左方に移動します。※その際、クレーン昇降において途中位置であった場合は、一緒に巻き上げも行います。


クレーン巻上げ回数について

まず、不具合の症状として以下の画像のようにクレーンの巻上げが途中で止まってしまう症状をみたことがあるのではないのでしょうか。

クレーンの途中停止

推測される原因を以下に列挙します。

  • 電池容量不足
  • クレーン昇降用モーターのトルク不足
  • トルクギアの劣化

それぞれのケースが、ANDもしく個別に発生しているのかもしれません。問題の切り分けを行い修理が必要となります。

■電池容量不足について

電池の容量が低下すると、そもそも制御ICが動作しない場合は、すぐ電池の容量ということが判明しそうですが、動作はするが、動作がおかしい事象ではこの電池の容量不足が疑われます。さて、電池の容量が低下すると以下のような流れでクレーンの巻上げが途中で止まってしまいます。

①電池の容量が低下 → ②モーターの駆動電圧が低下 → ③規定時間の計測で規定回数の巻き上げができなくなる → ④クレーンの巻き上げ回数が足りず途中で止まる

さて、③の『規定時間の計測で規定回数の巻き上げができなくなる』について詳細を説明します。

まず、今回のクレーンゲームですが、クレーンの巻き上げについては、どのくらい巻き上げるかは、センサーなどで計測しているのではなく、巻き上げに十分な回数を時間計測で巻き上げていると思われます。※仕様書がないので、推測ですが、大は小を兼ねる的な考えです。では、図で巻き上げにおける仕様(推測)を説明します。

巻き上げ回数 vs 計測時間

縦軸にクレーンの鎖の巻き上げ回数と横軸に制御ICが計測している巻き上げ時間をグラフ化しました。

電圧が正常であった場合、青矢印線のようにパケットが、上端に達するまでの時間t1が必要です。しかし、t1きっちりに時間を設定すると、モーター自体のトルクばらつきやギア系のばらつきなどで、巻き上げ不足や巻き上げ過ぎが生じます。緑の帯の区間のマージンを吸収するため、以下の構造が採用されています。

巻き上げ不足対策:t1が必須な巻き上げ時間であるので、t1よりも十分長い、ばらつきを考慮したt2という時間を制御ICが内部で計測します。各々のばらつきを考慮しても十分であろう時間t2になった時点で巻き上げを停止して巻き上げ不足を補間します。

巻き上げ過ぎ対策:パケットが上端に達した以降の巻き上げは、トルクギア(※後述)が滑り、鎖の巻き上げを空回りさせている。パケットは、落下しないようにギアをロックするツメが、その間ギアをロックしています。※巻き上げ時にガガガと鳴っているのは、ロックのツメガ機能している証拠です。

以上が、乾電池の容量が十分であった場合の青矢印で示すの巻き上げ回数の推移ケースです。乾電池が容量が低下した場合の赤矢印で示すのケースとなり、t2までの時間計測の間、ゆっくりと巻き上げるため、以下の不具合が生じます。

乾電池の電圧が低下しているので、モーターを駆動する電圧も低下し、t2を計測しても規定の巻き上げ回数に達しない。※電圧の低下は、制御ICの時間計測のタイマー性能には影響しない範囲としています。

赤矢印の通り、t2時間が経過しても規定の回数には達せず、パケットが上端に達するには、t3まで回す必要が出てきます。t3の制御は、規定時間がプログラミングされているので、ユーザでは変更不可能。

■クレーン昇降用モーターのトルク不足

まずは、経年劣化によるピニオンギアの割れでしょうか。完全に割れると滑ってしまいすぐ故障原因として分かるのですが、割れ初めて添加したグリスで滑り始めような場合は、モーター空回りの原因となります。

ピニオンギア割れ

また、前述の乾電池の容量不足に起因して巻き上げ回数が足りない場合に類似しているのですが、印加電圧が十分でもクレーンの巻き上げを行っているモーターのトルクが低下した場合も、赤矢印と同じように巻き上げ回数に過不足が生じます。

劣化グリス

これは、製品設計時は、モーターの製造工程ばらつき(±3σなど)を考慮しt2の時間を決定したと思いますが、経年劣化を考慮には入れていないかもしれません。※そもそも製品保障を行う場合、信頼性試験など劣化要素の検証を行いますますが、流石に玩具を対象に行うと製品価格が高騰してしまって、売り上げに影響しそうですね。

ただ、残念ながら本製品に使用されているモーターは、専用設計となっており、市販のマブチ製130モーターなどでは外形サイズは同じですが、トルクなどの性能規格が合いませんので、そのまま使用できません。同じ印加電圧でも、消費電流も大きく回転速度も速いです。

また、正常なモーターの仕様値が不明なので、何をもってトルク不足かと診断するのも難しいところです。純正モーターが手に入らない場合は、ブラシとコミテータの清掃とブラシ用の接点グリスのメンテナンスで精一杯でしょう。

■トルクギアの劣化

前述の巻き上げ過ぎ対策で示した『トルクギア』についてですが、以下の図の黄色枠の位置に設置されています。

トルクギア位置

このトルクギアは、モーターからの駆動力を鎖の巻上げまで伝動させる機能を担っています。※トルクギアとは、ギアの前後の力が、物理的がかみ合わせでつながるわけではなく、摩擦力でつながっているギアとなります。無理な力が生じた際、物理的なかみ合わせのギアでは、歯車の欠けや破損、酷い場合は、駆動側のモーターの焼損を生じますが、途中にトルクギアを挿入することにより、トルクギア内部で空回転を故意に生じさせ力を逃がす機能を有しています。

以下の図の通り、トルクギアの前後で伝動の境目を示します。青の範囲から、黄色の範囲へ動力を伝えます。

黄色枠:トルクギア後の巻き上げプーリーまでの範囲

青枠:モーターからトルクギアまでの範囲(※モーターは、取り外しています。)

トルクギア前後の区分け

さて、このトルクギアに問題が生じた場合は、どのような問題が起こるのでしょうか?

前述の通り、『巻き上げ過ぎ対策』での説明の通り、規定量以上の巻上げが生じた場合、パケットは、既に上端に達しているので、鎖の巻き上げは、それ以上できません。黄色枠のギアは、回転できません。従って、青枠のトルクギアまでは、t2時間まで空回転し続けメカ系のばらつきを吸収します。

正常な摩擦が残っているトルクギアであれば、問題ないのですが、グリスがトルクギア内部まで侵入し摩擦の急激な低下を招いた場合や、経年使用のため、界面の摩擦が無くなってしまった場合、本来トルクを逃がす以上にトルクを常時逃がしてしまい、青枠系から黄色枠系への動力の伝播ができなくなります。従って、規定回転まで達しないことになります。乾電池の容量が正常でも、前述グラフの赤矢印線のような状態になります。

グリスまみれのトルクギア

さて、このトルクギアの摩擦を回復させるためには、正常品と交換できればいいのですが、そもそも手に入りませんので、

  1. グリスの進入が酷い場合は、アルコールで洗浄する。
  2. トルクバネを調整しトルクを増す。

トルクバネの調整は、他の医院でも対処されているところもありますが、バネ端に針金を巻きつけスプリングの力を増します。

ばね強化(0.8mmのスズめっき線)
組み込み状況

以上が、巻き上げ回数に関するメカ系の仕様説明となります。

考察できた点を全て対処しても巻き上げ不足が生じるケースもあり、モーターの劣化、トルクギアの磨耗以外にも、印加電圧自体の制御系の不具合も懸念されます。