くすぐりエルモ 重症患者 修理

くすぐりエルモ

くすぐりエルモ 重症患者 修理

当院でもお馴染みになりつつあるくすぐりエルモです。

3箇所のくすぐりポイントでの起動反応はあるが、手が上がらず、その後も正常な動作もしないとのことです。また、笑い声も途中で止まってしまうとのことで修理のご依頼がありました。

到着して直ぐに診断を開始しましたが、故障箇所が多岐に渡っており、そのほとんどが困難が作業でした。では、時系列順に並べてみたいと思います。

手縫いされている

診断のためぬいぐるみの縫い目に沿って糸を切ろうとしたところ、

おや!?

手縫いされているぞ。一度誰かが開封してることがすぐ分かりました。念のため記憶に留めておきます。

さて、診断開始直後では、以下の3点の故障が判明しました。

1.スピーカーの断線

スピーカー断線

スピーカーの断線は、芯線の腐食で脆くなっており取れたので半田すればよいです。

このエルモは、基板とケーブルの固定に接着剤で固定されているのですが、経年劣化でボロボロになりケーブルの根本も取れ易くなっています。他のフラットケーブルも取れ易くなっており、取れて付け直すのは、かなりの心労でした。

断線

芯線が腐食しているので、ケーブルを丸ごと交換してしまいます。

ケーブル交換

因みに、過去の修理事例では、スピーカー自体の故障で交換した経験もあります。サイズ規格は、Φ=50mmで16Ωです。

2.各ギアボックス内モーターのピニオンギア割れ

この白筐体のエルモで多い故障であるピニオンギア割れが、腕上下用のモーターと腰曲げ用のモーターで起きておりました。まず、腰曲げモーター用のギアボックスを開いて確認します。

開封して、少しびっくりしておりました。

というのは、ピニオンギア割れが起きていると予想してギアボックス開けてみたのですが、開いてみると、どこかで見たことのあるピニオンギアが取り付けてあります。

協会のピニオンギア
3Dプリンター ピニオンギア

そうなのです、日本おもちゃ病院協会で支給されている3Dプリンター製のピニオンギアが既に取り付けたあります。しかも、挿しっぱなしでゆるゆるで滑っております。

先の、手縫いの痕といい、このピニオンギアといい、既にどこかの日本おもちゃ病院協会所属のおもちゃ病院かドクターの手に一度かかっているポイですね。そこで、お聞きしたところ、別のおもちゃ病院に修理を依頼され、修理不可能ということで戻されたそうでした。そのような理由から、当医院に修理を依頼されたようでした。

※どの点が修理困難だったかまではお聞きしておりませんが、、、。

ですが、この3Dプリンター製のピニオンギアは、差し込むだけではダメです。

腰曲げのトルクは相当なので、かならず接着剤で固定しなければなりません。

なので、エポキシ接着剤で固めておきます。

位置確認

固定位置も噛み合わせ位置を考慮して固定します。

それとですが、モーター固定用のカバーも割れておりますので、ワイヤーと接着剤で固定します。

カバー割れ
固定

腰用のギアボックスは、これヨシとします。

次に腕の上げ下げのギアボックスを確認します。

ピニオンギア割れ
8Tギア

割れたピニオンギアは、同じ8Tのピニオンギアに交換しておきます。

面一合わせ

とここまで作業しているところで、致命的な破損が発見されました。

3.腕上下稼働用モーターのギアボックス内のギア欠け

ギアボックスのギア割れの交換も済んだところで動作確認をしても、ガガガと異音を立てて動きません。というか、動くけど中途半端です。

ギア欠け

当初は、塗布されたグリスに埋まって見えていなかったのですが、黒枠のギアが欠けて、欠けた部分の噛み合わせできていませんでした。

ギア欠け1
ギア欠け2

恐らく腕の上げ下げを手で強引に動かしてしまったのでしょう。その力に耐えられず欠けてしまったようです。

ネット上の他の修理でも同じギア欠けを補修されております。

うーん、どうしょうか、、、。

この形状のギアは、代替えが効かないし、ネット記事のアルミ削り出しってのも自分にはできない。

当初は、ここで依頼者様に修理は難しい旨、お伝えしました。

もし、当医院でなくても、他のおもちゃ病院に依頼して診てもらえれば、何か策があるかもしれないとお伝えもしたところ、修理不可能であればそのまま飾っておかれるとのことでしたので、ダメ元でこの欠けたギアの補修方法を検討することにしました。※といっても簡単じゃないですよ。

まず、破損のギアを観察します。

深さ測定

欠けた部分は、山のある上部で下方の2mmは、ギアの噛み合わせに寄与していないようです。ギアも手持ちの8Tのピニオンギアと同じ仕様でした。

8Tピニオンギアで代替え

ここで閃きました。

ギアの上部山のある部分のみを削り取り、その上に手持ちのピニオンギアを載せて、下段1mm程を丸ごとプラリペアを充填して固めてしまえば補修できるぞ!

ピニオンギア合わせ

ご覧の通り、手持ちピニオンギアの長さもぴったりで換装できそうです。

噛み合わせ位置確認

噛み合わせ位置も微調整できそうなので、この補修計画でうまくいけそうです!

明るい兆しが見えました。早速、作業に着手します。

まず、換装するピニオンギアが、軸をくるくる自由に回れるように穴径を拡張します。

ドリル歯

大雑把にドリルで開け微調整はルーターの研摩刃で拡張します。

微調整

自由にくるくる回るように拡張します。

土手作成

プラリペアを充填するので、せき止める土手を紙で作成しておきます。手持ちΦ=4mmのパイプがあったので、それにコピー用紙を巻き付けて作成します。

こんな感じ

こんな感じで被せ固定してからプラリペアを充填します。

充填する高さは、先のギア噛みに寄与しない下方1mmまでの高さにします。実は、盛りすぎてしまい、後からの補修微調整が大変でした。

次に欠けたギア部をカットします。

破損ギアカット

山の位置を合わせるために目印をマジックペンで書いておきます。

代替えピニオンギア

代替えのピニオンギアを当てて位置関係を確認します。よさそうですね。

ここで、このピニオンギアをそのまま接着なんてできません。腕の上げ下げのトルクで接着なんぞでは直ぐ取れてしまいます。

で、次にプラリペアを充填するため土手をはめます。

型枠

土手といっていますが、これは型枠といった方がいいですね。

そして、静かにプラリペアを下の方から充填していきます。溶液が全体に滴るようにしないと、途中粉が残るようですと、その部分で破断してしまうので、十分注意します。

プラリペア充填

ギアの下、1mm程度でいいのですが、約半分程を固めてしまったので、この後ギアの山を削り出すことになりたいへんでした。では、十分時間をおき、型枠を外します。

プラリペア充填

盛り過ぎたせいを反省し次回はもっと浅く充填しようと思います。

こんな感じ

カッターナイフとルーターで形を整えギアの噛み合わせを確認しつつ作業します。

補修成功

無事噛み合わせも調整できギア欠けの補修は成功です。腕の上げ下げも快調です。

達成感がとても高いです。

さて、ここまで修理でやっと動くところまでできたと思い込んでおり、分解したパーツやら補修したパーツを組付けて動作確認をします。

あ”-!何かおかしいぞ!

腕の上が下げは、完璧になったけど、腰曲げの動作がおかしい。

お辞儀はできるけど、戻らない。

曲げた腰が戻らない

( ,,`・ω・´)ンンン?

まだまだ故障箇所がありそうだ。

かなりの沼にハマった感がハンパないです。

ここは意地でも元通りにせねばなりません。

姿勢センサーの故障で腰が曲がったことを検知できないのかもと思い、次に寝かしたまま起動してみます。

寝かしたまま

本来の仕様であれば、横になったママで起動すると、姿勢センサーが横向きを検知し起き上がり、当初の立位まで姿勢を戻し起動します。

ですが、寝かしママでも普通に起動しちゃいました。

あ”-、姿勢センサーの検知不良が起きてるっぽいですね。

そこで、まず腰曲げの角度を検出する基板の接点とフラットケーブルの断線がないか確認します。

問題なし

電極もケーブルの導通も問題ありませんでした。念のため、再半田をしといます。

次に、姿勢センサーを分解し内部をお掃除します。

姿勢センサー

姿勢センサーといっても、モジュール内部に金属の球と電極が仕込まれたよくあるセンサーです。

姿勢の位置で導通の電極を検知し、今現在の姿勢を認識するってやつです。ファービーにも使われていますね。

蓋開け
金属球

うーん、特にこれといった目視上の問題は無さそうですが、一応アルコールで拭いておき、内部の電極には、接点復活スプレーを吹いておきます。

さぁ、メンテナンスもしましたので、組み付けて再度動作を確認します。

残念、何も変わっていませんでした。_| ̄|○

ここで状況を整理します。

腰曲げができるが、元の戻せないのは、曲がっているという位置を検知できないのではなく、そもそも戻せないのかもしれない。

そうです!

他のエルモの修理記事にもある、Hブリッジのモータードライバの片方である、つまり逆回転側のトランジスタのどちらかか両方が壊れてしまう、正転はできるが逆転ができないのかもしれないということです。

しかも、他の故障修理記事では、トランジスタの交換記事も目にします。

これは、有力な故障情報でした。※はやく気が付けよというのはなしです。

ではではということで、腰曲げ用のモータードライバの回路解析します。

回路解析

基板からHブリッジの回路を起こします。

表面にディスクリートのA1273とC3205のHブリッジで、負荷の電流を稼ぐために裏面にチップ型の型番BDC33のNPNを組み合わせたモータードライバです。また、貫通電流防止のために排他処理用のチップトランジスタ(NPN)も実装されておりました。

このトランジスタですが、コレクタ電流が、2Aまで流せる仕様で、A1273とC3205は、コンプリメンタリです。破損するのだとすると、このどちらかのトランジスタなので、どちらのトランジスタも交換してみます。

やはりですが、国内では容易に手に入らないので、海外から調達しますが、またもやトラブルに見舞われました。もう、英語でどうのこうのというやり取りは、たいへんでストレスなんですよね。ひと月まったのに。。。

というのも、通販サイトでは、A1273とC3205の2種を注文したはずなのですが、A1273しか届きません。お店に問い合わせると、日本語のサイトでは、A1273とC3205の2種となっているが、本当のお店の表示では、A1273のみとなっており、言語設定のバグが起きていたらしいです。あ”-!まただーと、悔やんでもしかたないので、A1273のみを交換してみます。

まさしくビンゴでA1273のQ11が故障しておりました。

A1273
壊れています

やっと、やっと、やっとここまで解析できたぞ。T_T

早速動作確認だ。

交換作業で新たにケーブルが取れたりしましたが、全て正常になりました。

T_T

ぬいぐるみを被せ縫い合わせ最終動作も問題ありません。

長かった。依頼を受けてから三ヶ月かかった。

途中でくじけそうになったが、一度他の病院で修理不可能と診断され、修理できなければそのまま飾っておくとのことだったので、最後まであきらめずに挑んでよかった。


修理過程の記事も拝見し、あらためて大変な作業をしていただいたのだと強く感じております。

今回の修理のために大変な労力と数々の手を尽くしていただき、誠にありがとうございました。

十何年眠っていたエルモを、昨年生まれた息子にも元気な姿で見せてあげられることに 感謝の気持ちでいっぱいです。

これからまた大切に使用させていただきます。

本当にありがとうございました。

~依頼者様のご感想より~