ユメル 電源 レギュレータ 故障 修理

ユメルくん

当医院では、初めてのタカラトミー製のユメルくんです。非常に愛らしいお人形ですね。新型のユメルくんで設定データ保持用のボタン電池型ではなく、電気二重層コンデンサにて、電池交換までの6分間をカバーするという仕様になっておりました。

さて、ご依頼は、ある日突然電池交換以降、初期設定フェーズから先に進まないなくなってしまったとのことです。※ご購入してからメーカ様の保証期間が過ぎてしまわれたとのことで、たいへんお困りとのことでした。

私自身、ユメルくんを過去に修理した経験がなかったため、まずは取り扱い方法からの勉強も合わせての修理作業開始です。

実は、先行予約修理案件が多数ですぐ拝見できなかったため、お問い合わせ頂いてから、約1ヶ月お待ちいただきました。実は、この待ち期間が故障原因を探る糸口になりました。詳しくは、後述。

届いてすぐ不具合症状の再現確認をすべくと思いましたが、まずは使用になられていた乾電池の容量の確認です。

乾電池の容量不足

ユメルくんに挿入されていた単二乾電池4本に内、3本がほぼ完全に放電状態(数十mV)でした。

★これ、不思議です。

ここまで、放電する事態は、滅多にありません。とういうか回路の中で短絡でもされていたかのような残量状態です。この残量が、故障原因を突き止める糸口にもなりました。

ご依頼者様には、送付前に新品の乾電池での動作確認も依頼していたので、この富士通製の乾電池は、新品であったはずで、受け取りまでの 約1ヶ月でここまで電圧の降下を起こしていたのです。何かありそうな匂いがプンプンします。

ユメルの取り扱い説明書には、新品のアルカリ乾電池で、一日約40分の使用を想定すると約2か月は持つとのことなのに、この減りようは異常ですね。ご依頼者様は、パナソニック製の新品のアルカリ乾電池(EVOLTA)を別に同封頂いておりましたので、早速ですが、新品の乾電池にて動作させてみると、なんと!普通に動くじゃないですか、、、。単に、電池が消耗していたのか、、、。ということで、この新品の乾電池で様子見をします。初期設定を行い、就寝と起床時の動作を確認します。※因みに、故障解析の中で、初期設定の操作がうまくなり最後まで聞かずとも設定を進めることができるようになりました。

翌朝、起床午前6時にユメルくんの前で待っておりましたら、普通に『おはよう!』と起きようとしましたが、瞼が少し動いたとたん止まり何か起きたのかと左手ボタンを押してみたら、初期化されており最初の設定フェーズになっておりました。

おや!?おや!?電池の容量不足が原因ぽくないぞ。

その後、再度動作確認をすると、初期設定が完了できる時もあれば、瞼の開閉のとたんリセットされてしまう事象が出てきました。お問い合わせ頂いた症状と合致します。

しかし、何とも不可思議なのは、不具合の再現率が低いのです。10回に2回という2割の確率でしか、不具合は再現されません。故障解析では、一番厄介な症状ですね。しかも、当初新品の乾電池の容量も、前日6.0Vあったのは、翌朝には、5.3Vまで低下していました。ほとんど寝ていたはずなのに、この電圧降下はやはり異常です。

ここで新たな糸口が発見できました。解析の時間が経過するにつれて故障の再現率が格段アップしました。およそ8割の確率で初期設定が進まない症状が現れるようになりました。また、この段階で、瞼の開閉を制御するモーターが駆動するタイミングが、初期化されるタイミングを同じことが確認できました。

ここまでまとめると、

  1. 電池の消耗が非常に激しい。ユメルがお休みであった、9時間の間でも6.0V→5.3Vと0.7Vの低下があった。
  2. 初期化される不具合は、かならず初期設定時に動作する瞼の開閉動作(モーターの動作)とリンクしている。
  3. 新品の乾電池では、無事初期設定が完了したが、翌朝の起床時の瞼の開閉時に初期化されてしまっている。
  4. 解析時間が経つにつれて故障症状の再現性が高くなっている。

さらに、同時に基板上の不具合や配線の断線も確認しました。

メイン基板

基板は、2枚構成で、COB搭載のメイン基板とプッシュSWがある子基板です。目視上は、断線も腐食等もなくこれといった不具合は発見できませんでした。

Q5の電源レギュレータ、電解コン2本と電気二重層コンデンサ、振動センサーとシリアルのFlashメモリ、C8 瞼用のHブリッジのモータードライバ、COB構成、その他もろもろです。

ここでふと、過去にラジコンを自作した際の経験を思い出しました。モータードライバを搭載しモーター制御すると、必ず回転の起動時に起動(突入)電流が、一気にながれて瞬時に大きな電圧降下をおこします。ラジコンの受信機と制御マイコンの電源とモーターおよびモータードライバの電源を共通化すると、起動時に必ず起動電流によって電圧降下を起こしてしまって、制御マイコンがリセットされる事態に遭遇します。昇圧回路を挿入するなりで電源のバッファ機能を追加しリセットの時間を回避した経験があります。

今回のユメルくんも瞼の動作開始時に起動電流によって瞬時に大きな電圧降下を起こしてしまってCOBのVDDが、大きい電圧降下を瞬時に起こし、パワーダウンを検知した電源保護回路がリセットしたものだという仮説をたて調査再開しました。

電源回路まわりを図面に起こすべく調査をしている最中に有力が症状を観測できました。Q5の電源レギュレータが、異常発熱しております。チンチンではありませんが、指でさわれるぎりぎりの熱さです。しかも、レギュレート電圧を計ってみると異常値(5.52V)をさしていました。この異常電源は、モータードライバはもとよりCOB側へも配られておりました。仮説の裏付け通りになってきました。

電源回りの回路

刻印の6206Aから検索する、トレックスとMicroOne 微盟電子のデータシートがヒットし確認すると、下段刻印からどうも3.3V用の三端子のレギュレータでVin ~6.0VでVout 3.3V, Ioutが、200mAもしくは300mAという代物のようです。※Ioutの最大定格は、500mAとありました。発熱といい、Voutの異常値といいこのレギュレータが、原因の一部であることはどうも間違いなさそうです。

さて、原因を切り分けと、前述のまとめの内容とこの電源レギュレータの異常とを関連付けるために”ひとりブレスト”をしてみました。

ホワイトボード

正常時は、電源のレギュレータは、モータードライバ向けの電流バッファ的な役割を果たしており、起動電流が発生してもバッファ機能が働きCOBがリセットするまでの電圧降下はしなかった。しかし、電源のレギュレータが、故障していまい乾電池の電源がほぼ貫通した状態では、バッファ機能が失われ、瞼の開閉の度にCOBがリセットしてしまうという不具合のメカニズムととらえました。

レギュレータの不良モードとしては、データシートのブロック図から、電流制限のPch-MOSが常時ON状態で、ON抵抗分の電圧降下のため、6.0V → 5.52Vであろうと推測しました。データシートでも、3.3V レギュレータ時の入出力電圧差が、Max 680mVなので、まぁ妥当な差なんだろうと思います。また、発熱の原因もCMOSのプロセスなので、ジャンクション系のリークでもここまで流れないだろうから、差動オペアンプの中間電位用の分圧抵抗が、年次劣化の経過的に異常値になってしまいVoutからVssまでのパスが出来ていたのでしょう。※しかしですが、民生品向けの半導体なので信頼性テスト(Life試験)的なこともしてると思いますが。。。

ということで、電源レギュレータの故障により内部に電流のパスが生成され、常時大きな貫通電流が流れていたため、発熱と乾電池の消耗を招いたと思われます。前述の1ヶ月の待ち期間で富士通製の乾電池の底が尽き、新品の乾電池(パワフルなEVOLTA)では、モーターの起動電流の補償がぎりぎりでき初回の設定は成功できた。しかし、乾電池を消費し電圧が落ち込むと、モーターの起動電流をカバーできなくなり、故障症状の再現率があがったと思われます。

実は、 電源のレギュレータを外した際に手持ちの安定化電源で、2系統のVinとVoutを別々に供給して様子をみたのですが、安定化電源ぐらいでは、補償速度が間に合わないのか、故障症状が改善されず、電源のレギュレータパーツの他に、モータードライバやモーター自体の故障も想定をしておりました。

確認の作戦としては、まず電源レギュレータの交換で状況確認する。改善できなければ、モータードライバも換装交換し状況を確認するという段取りです。 オシロでCOBの瞬停の瞬間を捕えようと思いましたが、何分電源信号の配線を発見できずでした。

モーター自体は、消費電流も異常値をさしておらず、そもそも市販の汎用品でなく、本体を開封して内部を観察も難しいカシメタイプでしたので、優先順位を落としておりました。

早速ですが、 電源レギュレータ 6206A(SOT-89)は、同じパッケージでピン配も同じ上位IC(ME6211A)が、見つかったので、それで代替えしました。前述の絵の通りです。

正常時は、3.3Vが共有されていたであろうモータードライバ NY9M005Aですが、VDDの規格MAXが、~5.5V。最大定格も6.0Vなので、恐らく故障はしていないだろうと思いましたが、念のため代替えのICを探しました。しかし、6pinのSOT23が、見つかりません。やむなく、SOP8を探しピッチ変換基板で対応しようという作戦です。

電源レギュレータ ME6211Aへの換装で無事動作が元にもどりました。初期設定も就寝も起床も普段の行いもよいユメルが復活しました。瞼もパチパチさせお歌も上手にうたってくれます。ということで、モータードライバへの影響はなかったようですね。

不具合の原因追及まで少々時間要してしまいましたが、無事修理を終えお返しできるようになりました。

P.S 念のためモータには、104の積セラを追加しときました。三端子レギュレータのVinとVoutのコンデンサですが、基板上にはシルクが施されていますが、実装はされておらず、何ともコスト削減でしょうかね。